歩き出したチビは手に取るものすべてが新鮮なわけでどんどん自分の世界が広がっていってる。拍手もするようになったし、音楽を聴いてリズムをとったり、スティービー・ワンダーのように何度も首を横に振ったり。
当然、宇宙語的な言葉も乱れ飛んでおるわけで。やはり最初に発するちゃんとした言葉ってものは父親、母親共に、自分の事を呼んでくれるもんだと一歩もひかん状態で待機してるわけ。これが。
そのため、自分が唯一チビと二人っきりになる場所.....つまり風呂では、面と向かって「おとうちゃん」とレクチャーしてるのだ。
ということは、暗黙の了解にて嫁はんもワシが仕事中の時間違い無く「おかあちゃん」とレクチャーしておるはずだ。
ことこの事に関しては、ちょっとした70年代の米ソの関係なのだ。決して戦っているわけではないのだが。
家では通常、嫁はAMラジオのリスナーなのである。いつもの如く、アンニュイに食後のコーヒーをすすってソファに腰掛け、ボーっとしておるとAMラジオから時報を鳴らす前に流れるスジャータの音楽が。そう、関西人なら皆誰もが知っているあの唄だ。
「♪スジャータ、スジャータ、白いひろがり...♪」
全ての関西人はこれで10時の休憩や、昼ごはん、仕事の再開、仕事の終了.......等、さまざまに活用している、すっごく時間の事をあてにしてるあの唄だ。
「おっそろそろ10時やな。さてさて......」
とおもむろにソファから腰をあげた瞬間、前にいたチビが満面の笑みで
「しゅしゃーちゃ......すしゃーちゃ.......スジャータ!」
ひゅーどすん。